学習能力がなさすぎる。
寝台に俯せになって、司馬師は重く溜息を吐いた。
また、手首には指跡の赤い痣。
身体は硬い方ではないが、それでも強いられ続けた無理な体勢に間接が軋む。
背中側では、この狼藉の犯人がおろおろしている気配が伺えた。
「すみません、兄上・・・お体は大丈夫ですか」
「大丈夫ではないと言えば、おまえはどうするつもりだ」
掠れてしまった声で意地悪く返せば、遠慮がちに触れていた手がぴくりと震える。
見なくても、大きな榛色の眸が潤んでいるのが容易に想像できた。
毎回毎回、この弟は学習しない。
馬鹿なワケではないのに、同じ轍を踏んで後悔ばかりしている。
そして、自戒するにも関わらず何故いつも同じ事態に陥ってしまうのか。
己の強欲ばかりを責めて、その真相には思い至らない。
真に愚行と考えているのなら、司馬師が繰り返しを許すはずもないのに。
理性的であろうとする弟を、甘い誘惑に堕とすのはいつだって兄自身。
弟から向けられる執着に塗れた眸が、隠しきれない情欲が愛惜しくて。
許してやるという素振りで躯を開く。
褥でしか見せない婀娜な仕草で切なく名前を呼べば、いとも簡単に司馬昭は陥落した。
「・・・兄上」
気弱な声で呼びかけられる。
知らぬ顔で瞼を閉ざしてしまうのも手。
けれど、たまにはそれ以外の蜜を垂らしてやる。
俯せの身体を気怠そうに返して、見下ろしてくる潤んだ目をじっと見返す。
しなやかな手で日に焼けた頬を包み込むと、司馬昭はこくりと息を呑んだ。
「真に受けるな、馬鹿者。私はそれほど柔ではない」
「兄上」
「だが、楽なわけでもない。この痣を見るたびに、おまえの仕打ちを思い出すだろうな」
束縛の痕に唇を寄せれば、顔を赤くした司馬昭は酷く複雑そうな表情を浮かべて。
急にああもう!と大声で喚くと、太い腕でぎゅっと力一杯司馬師を抱き締めた。
「これ以上俺を煽らないでくださいよ!」
「心外だ。私が何をしたというのだ」
「兄上ぇ~・・・」
精悍な顔が情けなく歪む。
ふっと目元を綻ばせて、司馬師は優しく弟を抱き返した。
今回は、元姫に慰めてもらわずにすむように。
たまには、怠い身を堪えて司馬昭の甘えを全面的に受け入れる。
喜色満面の笑顔になった単純な弟に、司馬師も柔らかに微笑み返した。
愚かで愛惜しい弟よ。
私の存在が在る限り、おまえはずっと、私の手中。
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